亀井 勇樹

1963年生まれ

樹の鞄は、1990年に妻への贈り物として最初の樹の鞄を制作したことから始まりました。独学で木彫技法を学び、シナノキの美しい木目に魅了され、30年以上に渡って独自の「樹の鞄」を制作し続けています。

山梨県北杜市のアトリエで、日々シナノキと向き合いながら、素材の特性を最大限に活かす独特のデザインを追求しています。3000点を超える作品には一つとして同じものはなく、それぞれの鞄が独自の個性と魅力を持っています。樹の鞄が、単なる持ち物ではなく、持つ人と共に成長し、時を経ても色褪せない美しさを放つパートナーとして、あなたとともに歩むことを楽しみにしています。

樹の鞄に込めた想い

樹の鞄はつくり手にとってのキャンバスです。ひとつひとつの鞄は繊細な手作業で丁寧に制作された一点ものであり、同じものはひとつもありません。それぞれが他に類を見ない唯一無二のデザインと美しさを持っています。

すべての工程は亀井勇樹が一人で行っており、つくり手の情熱やインスピレーションが随所に現れています。デザインを決めるうえで最も大切にしていることは、木の無駄がなるべく出ないようにすること。可能な限り無駄なく木取りを行い、シナノキが本来持っている木目や節をデザインとして取り入れられるよう、様々な形状の鞄を制作しています。

デザインするときには事前に図面を作成することはありません。お客様が使いやすいサイズや形状になるよう、ひとつひとつ工夫をしながらデザインをしています。その結果として、独特な曲線やくびれが生まれます。

制作のきっかけ

亀井勇樹は、小さいころから他の人がやらないこと、やったことがないことをやるのが好きでした。常に新しいことに挑戦することを愛しており、あるとき、会社員を辞めて木彫の世界に入ることを志しました。

もちろんこの大きな転機は経済的な試練をもたらしました。しかし、妻の献身的な支えのもと、彼は独学で木彫や塗装の技法を学ぶことができました。そして、彼の心の中にある、妻に対する深い感謝の気持ちを形にするために、特別なプレゼントとして鞄を制作して贈ることを決意したのです。ホームセンターで鞄の素材を探していたとき、偶然にシナノキに出会い「これを彫ったら鞄になるよなあ」と考えたことが「樹の鞄」の制作に繋がったのです。

初期の制作では、シナノキだけでなく、アルミやステンレス、真鍮などの様々な素材についてもチャレンジも行っていましたそして、鞄自体の構造やデザインについても多くの試行錯誤を重ね、ユーザーの使いやすさの観点を大切にしながら、やがて現在の洗練された製法やデザイン、留め具の構造にたどり着きました。

創造性と冒険心

木彫の世界に入ることを決意したばかりではなく、亀井勇樹の人生は一歩ずつ前に進んでいく冒険の連続です。

2022年、彼は初めて100kmウルトラマラソンを完走しました。しかし、この偉業の背後には、初めは100mも走れなかったという現実があります。少しずつ走り、早歩きを繰り返す日々を経て、走れる距離の「限界」はじわじわと伸びていきました。「行けるところまで行きたい」というパーソナリティ、新しいことに対する好奇心と冒険心が、彼を常に前向きな姿勢で新しい挑戦へと駆り立てます。それがウルトラマラソンであれ、新しい素材や技法であれ、彼はその全てを楽しむことができるのです。

特に注目すべきは、新しい冒険が始まる瞬間の緊張感を楽しむ能力です。多くの人が恐れる「始まり」を、一つ一つの出来事として受け入れ、その過程全体を楽しんでいます。

つくり手の「創造性と冒険心」は、彼自身と同じように、一歩ずつ、しかし確実に、広がりを見せています。それはまさに、「樹の鞄」がお客様の手元で共に成長することと同じように、ともに高め合っていくものと信じています。

技法

溢れるインスピレーション

亀井勇樹の手によって生まれる「樹の鞄」は、30年を超える歳月を経ても、心の中から湧き上がるインスピレーションの源が尽きることがありません。それぞれの鞄は、ただの四角い木の塊ではなく、滑らかに削り出された曲線と独特の魅力を持つアートワークとしての存在感を放っています。

単なる工芸品としての魅力だけでなくユーザーの使い心地についても深く検討されています。軽さと耐久性を兼ね備えた設計が施されており、初めて「樹の鞄」に触れる方々は、その驚くほどの軽さに感動されることが多いのです。

また、シナノキの木材は、その白い木肌が魅力的ですが、その中には自然が生み出した希少な美しい木目をもつものがあります。この特別な木肌を指して「杢目(もくめ)」と呼びます。これらの特別な杢目を持つ材料は、その美しさを一層引き立てるために漆塗りの技法で仕上げられています。

繊細な拭き漆の仕上げ

漆塗りは、日本の伝統的な工芸技法の一つで、数千年にわたる歴史を持つものです。この技法は、天然の漆を何層も塗り重ねることで、耐久性と美しさを兼ね備えた深い質感を表現することができます。

「樹の鞄」の仕上げにおいては、シナノキの木肌の美しさを最大限に引き出すために、拭き漆仕上げという繊細な技法が使われています。この技法は、漆を塗布したあと、布などで丁寧に拭き取ることで、木の素材感を活かしつつ、漆に特有の深い光沢を引き出すものです。拭き取るタイミングや力加減によって、仕上がりの質感や色味が微妙に変わります。その結果、一つとして同じもののない、唯一無二の作品が生まれるのです。

この拭き漆仕上げによって、シナノキの繊細な木目と漆の深い光沢が融合し、素材の持つ美しさが一つの鞄の中で結実します。この絶妙なバランスは、つくり手の長年の経験と繊細な感性によって生み出されるもので、手に取って触れるたびにその魅力を再確認できるでしょう。

鮮やかなで複雑な色彩

それぞれの木材ごとの木目を生かすために、独自の着色方法でそれを引き出しています。日本古来の素材として、柿渋や弁柄、胡粉などを使用して着色しています。漆の深い艶によって見るものを引き込む鞄だけでなく、透明感のある鮮やかな色彩で樹の温もりを感じさせる鞄もあります。単に一色の色を塗るだけではなく、複数の色の層を重ねていくことで、独特で複雑な色合いを表現しています。

漆を利用する場合は、研ぎ出し技法と言われる仕上げ技法を用いています。木材の中に含まれる水分量によって、漆がどの程度染み込んでいくかが異なるため、自然と独特な模様が現れます。木地を調整した後でさらに繰り返して研磨と塗装を行うことで、この模様や微妙な凹凸を生かした表現を行うことができます。鞄の表面をじっと見ていただき、この複雑な色合いをお楽しみください。

底面の彫刻

樹の鞄の底面には、ちょっとした驚きが隠れています。

滑り止めの機能を持たせるために底面には彫刻が施されています。樹の鞄の制作を始めた最初期には、単に機能性を優先した彫刻でした。しかし、年を経るにしたがって、自然界の風景や幾何学的な模様からインスピレーションを受け、職人の遊び心と情熱が交錯する繊細なデザインの彫刻へと昇華されています。

樹の鞄を単に持って使うだけでは見えない隠れた部分だからこそ、ふとした時に見える彫刻が、ちょっとした幸せを感じさせてくれます。

八ヶ岳アトリエ

山梨県と長野県にまたがる八ヶ岳の山麓、その静かな森の中に樹の鞄の制作を行っているアトリエと、作品をご覧いただけるギャラリーがあります。

2020年、樹の鞄は創業から30周年を迎えました。八ヶ岳のアトリエ&ギャラリーには、妻への贈り物である第一号とともに、創業初期に制作されたものを含む、多くの「樹の鞄」が展示されています。実際に鞄を手に取ってご覧いただくことができます。(完全予約制)

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